maki

彼女がドーナツを守る理由 40

2025/7/14  

その日もモカはシンと共に街を巡回していた。シンはいくらかリラックスしているようだった。というのも、このところめっきり『F』を見なくなり、一週間に一体見つけるか見つけないかという状態が続いていたのだ。モ ...

彼女がドーナツを守る理由 39

2025/7/14  

「ヨウくん、ゾウ」 リリィが指差す先には、小さな可愛らしい目をして、長い鼻を高々と持ち上げる象がいた。「本当だ。象だね」 太陽の光を受けて、リリィの爪に綺麗に並べられたラインストーンがキラ、と光った。 ...

彼女がドーナツを守る理由 38

2025/6/17  

 窓の外に花火が上がっている。人々は陽気さを取り戻し、不安をすっかり忘れたかのようだ。通りを歩く人の楽しそうなざわめきに、思わず頬が緩んだ。『陽気』というのも、悪くはないな、とこの時ばかりは思った。周 ...

彼女がドーナツを守る理由 37

2025/5/1  

 青白い恒星の光が街を照らしている。廃墟と化した街。動くものの気配はない。砂埃の積もった地面に奇妙な足跡のようなものが付いているのを見つけ、モカは背筋が寒くなるのを感じた。──まだ新しい……。 シンを ...

彼女がドーナツを守る理由 36

2025/4/11  

 テレビではどのチャンネルも太陽の話題で持ち切りだった。落下現場が繰り返し中継され、何の変哲もない民家が前から横から上空から、テレビ局のカメラによって眺め回され、世界中に発信された。立ち入り禁止の黄色 ...

彼女がドーナツを守る理由 35

2025/2/23  

 新人賞の最終選考候補者が発表された。その中に僕の名前はなかった。  イツキ叔父は今度は、残念会なるものを開いてくれた。残念会とはいっても、中身はお祝いの会と変わらない。名前が変わっただけだ。けれど、 ...

彼女がドーナツを守る理由 34

2025/1/14  

─────第二章────  定期購読している文芸誌に応募していた僕の作品が二次選考まで残っていた。五十編ある候補作の中のひとつに過ぎなかったが、それでもここまで残ったのは初めてのことで、僕は飛び上がる ...

彼女がドーナツを守る理由 33

2024/8/16  

 外側の世界に立つと、強く吹く風の音が耳を打った。僕はその「ビュウウ」という暴力的な音にしばし耳を傾けた。このように強く吹く自然な風というものは、僕には馴染みのないものだ。初めて聞いた時には何の音かも ...

彼女がドーナツを守る理由 32

2024/7/22  

 リビングのソファに座っていると、家中どこもかしこも静まり返って、家というのはこんなにも静かだっただろうかと不意に思った。休日に家にいるのは久しぶりのことだった。 テレビ台が埃を被ってうっすらと白くな ...

彼女がドーナツを守る理由 31

2024/6/16  

 意を決してトンネルの外に出ると、驚いたことにモカはそこにいた。崖の淵の少しばかり手前に、うつむいて座っている人影があった。まるで迎えが来ないことに失望した小さな女の子のようだった。ひとりきりで、崩れ ...