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彼女がドーナツを守る理由 9

「わあっ」 と突然後ろから声を掛けられた。僕は驚き、転びそうになる。振り返ると、リリィがいたずらっぽい笑みを浮かべて立っていた。仕事帰りの駅のホームでのことだ。「リリィ」「ヨウくん、今帰り? 偶然だね ...

たまごたっぷりマフィン☺読書の合間にできるカンタンおやつ その①

2022/8/12    

お菓子作りが好きでよく作ります。今時安いケーキでも十分美味しいのが幾らでも売ってあるけれど、手作りのおやつって、やっぱり美味しい。 でもちょっと面倒ですよね。何が面倒かって、一番は材料の計量だと思うの ...

彼女がドーナツを守る理由 8

「一体何だって雨なんか降らせるんだ? 嫌がらせか? 散水車だけで十分だろ」 昼休み、マークは機嫌が悪かった。指輪のデザインでまだ悩んでいるのだ。それに追い打ちをかけるように、今日の天気は『大雨』だった ...

彼女がドーナツを守る理由 7

 途中、きっとここが『真ん中』なのだろう、という地点を通過する。その地点に近付くと、身体が重くなったように感じるのだ。進み続けると、圧し潰されるような圧迫を感じるようになり、息苦しく、どちらが上でどち ...

彼女がドーナツを守る理由 6

 カウンターの上に開かれたページには、指輪のデザイン画が並んでいる。植物の蔓のような、滑らかな曲線。そこに木の実を思わせる赤い粒が付いている。マークの得意とする有機的で繊細なデザインだ。これはまた作る ...

彼女がドーナツを守る理由 5

 ダイニングバー『トーラス』は、勤務先である工房から最寄り駅までの道の途中にある。酒だけでなく食事のメニューも充実していて、気易い雰囲気で値段もそれほど高くなく、しかも夜遅くまで営業している。必然的に ...

彼女がドーナツを守る理由 4

 家に帰り着いたのは夜中近くだった。僕は台所でカップラーメンを作って食べ、シャワーを浴びるとすぐに寝た。 祖父と両親と共に暮らしていた、木造二階建てで小さな庭もあるこの家に、僕は現在ひとりで住んでいる ...

彼女がドーナツを守る理由 3

 ピアスを左右とも仕上げた時には、工房に残っているのは僕ひとりになっていた。片付けをし、戸締まりをして外に出る。工房の前の庭に立って、僕は顔を仰向けた。 すっかり暗くなった空には、『太陽』の代わりに煌 ...

彼女がドーナツを守る理由 2

第一章  午後三時、窓の外に雨が降り始めた。ザアアという心地良い音と雨の匂いがあたりに満ち、心なしか室内の温度が少し下がる。僕は手を止めて窓の外に目を遣った。 家々の屋根や、屋外に停められた自転車、工 ...

彼女がドーナツを守る理由 1

あらすじ 今からおよそ五百年ほど後の、地球ではない星。アクセサリー工房で働きながら小説家を目指すヨウは、古い文献に出てくる謎の言葉、『星』について日々考えを巡らせていた。そんな中、亡き祖父と幼い頃に交 ...