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読書感想 ギンイロノウタ 村田沙耶香

村田沙耶香さんの作品を初めて読んだのは『コンビニ人間』でしたが、「とっても奇妙」だと強い印象を受けました。奇妙なのにリアリティがあって、本人の話なんじゃないかと思ったほどでした。強烈に個性的な作家さんですよね。
この『ギンイロノウタ』は『ひかりのあしあと』と『ギンイロノウタ』の2編で構成されているのですが、読み始めて思ったことは、「なんじゃこりゃー」でした。奇妙すぎる……。
あ、誉め言葉です、もちろん。

さて、あらすじです。まずは『ひかりのあしあと』から。
ネタバレの部分がありますので、まだお読みでない方はご注意ください!

〈『ひかりのあしあと』あらすじ〉
古島誉は小学校二年生の夏休み前日の放課後、寄り道をした公園でピンク色の布地に包まれた怪人に遭遇する。誉は怪人に追い立てられ、新しい公園のまだ水も通っていない公衆トイレに閉じ込められた。怪人はトイレの外から、テープの音声で「ピジイテチンノンヨチイクン」という『呪文』を繰り返し流す。その夜から誉は頭からその呪文が離れなくなった。思わず唱えてしまった時、『光の人影』が現れ、誉は恐怖する。以来、誉は光を恐れ、光から逃げるようにして生活を送っている。人付き合いが苦手な誉だが、『レンアイ』は得意だった。新しい男に出会うたび、その人が『光』から救ってくれる救世主だと思い、そして男から男へ渡り歩くように『レンアイ』を繰り返している。誉は大学で芹沢蛍に出会う。蛍は一風変わった男の子で、誉は、この人こそ救世主だ、と思うのだが……。

「ですます調」で語られる文体で、誉から見た世界の描写はどこか奇妙。まるで不気味な絵本のようです。子供のように頼りない誉のお母さんの初登場のシーンが、可愛らしい人のはずなのに幽霊か妖怪でも出てくるみたいに不穏で、個人的に大好きです。物語の中で、誉は父親と共に母親を『守る』立ち位置にいます。しかしそれは誉の中に徐々にフラストレーションを蓄積させているようで。はてさて……。

はい、次。

〈『ギンイロノウタ』あらすじ〉
土屋有里は産まれた時から内気な少女だった。世間の目を気にして、一方家では時々鬼のようになる母親、そして家庭に無関心な父親と共に暮らす家でも、幼稚園や学校でも、有里はかすれたような声で話し、常にオドオドし、周りの人間を苛つかせる。ある日有里は文具屋で銀色の指示棒を見つけて購入する。大好きなテレビアニメ『魔法使いパールちゃん』を真似て、有里は指示棒を自分のステッキにすることにした。そしてパールちゃんのセリフを真似して、襖に向かって『銀色の扉』になってくれるようにお願いする。『銀色の扉(襖)』は『黒い部屋(押し入れの下の段)』につながっている。黒い部屋は有里とステッキだけの秘密の特別な空間だった。
孤独だったが奇妙に安定していた学校生活は、中学三年生で担任になった熱血教師、赤津の的外れな指導のせいで崩れてしまう。有里は赤津に殺意を覚え、赤津を殺す妄想をノートに書き綴る。それは欠かせない習慣になり、殺害の描写はだんだんと緻密になってゆき、やがて有里はその中に、あの『銀色の扉』を発見する……。

内気で孤独な少女が化け物になるまでのお話です。幼い頃に、『女性』は男性の注目を集められることを発見し、成長すれば当然求められる存在になれると信じていたが思ったようにいかない。家庭、学校、アルバイト……どこに行っても馴染むことができず、居場所がない。そんな少女に残された唯一の道とは。ラストがとても不思議で、この後どうなったんだろう? と思いました。

『ひかりのあしあと』『ギンイロノウタ』の2編とも、他では読んだとこのないような奇妙な物語でした。
この二作品をひと言でいうと、『狂気』です。
もう何ていうか、本物の『狂気』です……。

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