短編・連作短編小説

掌編小説 私は、積み上げる

 私は積み上げる。
 私は箱を、積み上げる。
 大きな箱。
 小さな箱。
 紙でできたのや、プラスチックのもの、薄い木でできたもの。
 固いの、脆いの。
 色や形も様々。
 ひとつひとつ、持ち上げては、前に置いたものの上に、慎重に、積み上げる。
 バランスが崩れて、落ちることもある。
 全部初めからやり直しになることもある。
 そういう時はちょっと泣く。
 でも、無駄になりはしない。
 箱は崩れても、得られた知識は、経験は、確実に積み上がっているのだから……。
 そしてまた、ひとつひとつ、積み上げていく。
 地道に、丁寧に、愚直なまでに。
 私は目の前の箱に、全身全霊で向き合うのだ。
 いずれそれは、私の背丈をも超えるだろう。
 昇ってゆくがいい。
 想像を超えて、遥かな高みまで!
「あ、こんなところにあったの!」
 無粋な高い声で言い、踏み込んできたのは私の母だ。
「ごめんね、ユウくん、お母さんこの綿棒使うんだ。ちょっとだけ貸してね」
 母はあろうことか私が積み上げた崇高なる塔の土台をなしている円柱形の箱に手を伸ばした。
「だめ! だめなのー!」
 私は全力で抵抗する。
 しかし偉大なるマザーの前に、力の差は歴然。
 ああ、二歳児のなんと無力なことか。
 塔は無情にも崩れ去った。
 私はあらん限りの声を張り上げて抗議した!
「うわあーん!」
「ごめん、ごめんね。お菓子買ってきてあげるからね。帰ったらお母さんと一緒に積もうね」
 母は私の頭に手を置いた。
 温かき母の手よ。
「ふんす……」
 お菓子……。
 フン、まあ、許してやるか。

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