長編小説

彼女がドーナツを守る理由 1

あらすじ

今からおよそ五百年ほど後の、地球ではない星。アクセサリー工房で働きながら小説家を目指すヨウは、古い文献に出てくる謎の言葉、『星』について日々考えを巡らせていた。そんな中、亡き祖父と幼い頃に交わした約束を思い出して庭に穴を掘っていたヨウは、その穴の先に見たことのない別世界があるのを発見する。そしてその世界で運命の女性、モカに出会い恋に落ちる。二人の出会いが、この星を崩壊に導くことになるとも知らずに……。

序章

 現在、地面に穴を掘ることは、法律で禁止されている。
『穴掘禁止法』に基づいて、世間一般で広く知られている基準としては、庭の片隅に小鳥の墓を掘るくらいならオーケーだが、趣味で畑を持ったり、木を植えたり植え替えたりするのは禁止である。それから壊れた冷蔵庫や、莫大な埋蔵金、あるいはうっかり殺した愛人の死体などを許可なく埋めるのももちろん禁止。詳しい大きさや個数の限度などは法律書の『穴掘禁止法』の項目に明記されているはずだが、わざわざ調べてみる奴はそうそういない。ざっくりと言えば、小さいものは良くて、大きいものはダメ。それだけ分かっていれば十分だ。
 それでも道路工事などで、どうしても小鳥のお墓以上の大きさの穴を掘らなければならない場合というのももちろんある。そういう場合は、書類を書いて役所に提出する。すると審査を経た後、許可が下りる(ちなみに、この申請は誰でもできる。ただ、許可が下りない場合も多々ある。というか、個人で申請した場合、許可されることはほとんどないといっていい。それでは何故個人の申請も受け付けるのだ、と言いたいところだが、そこは何かお役所的な事情があるのだろう)。

 誰しも子供時代は、これくらいならいいか、と思いながら、大きな木の根元に宝箱を埋めてみたりした経験があるかと思う。しかし、どうか気を付けてほしい。『穴掘禁止法』違反に対する刑は、意外と重いのである。場合によっては傷害や窃盗よりも罪は重くなり、地面に穴を掘っただけで一生塀の中から出られない、なんてこともあるらしい……。

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